Denimusic Fes

邦ロックとかラウドロックとかジーンズとか

コロナ禍におけるライブシーンとこれからのダイブモッシュについて

はじめに

ライブハウスにおけるダイブモッシュについて


実はこのテーマについては大分前にnoteで書いた記憶がある。と言ってもあの頃に比べると色々と変わってきたという事もあり再度書く事にした。


先に言っておくと俺は「ダイブモッシュ容認派」である。

もっとも最近はマシにはなったとはいえコロナ禍でダイブモッシュは悪の所業とばかりに叩かれまくっていた為心の片隅に置くしかなかった。まあ濃厚接触だからなアレ。そもそもコロナ禍初期の頃はライブを行う事自体悪とまで言われてたのである。


コロナ禍も4年目に突入し、そろそろ元の日常を取り戻しても良い雰囲気が漂う中、ライブハウスの様子も変わってきた。


Zeppクラスの大会場だと表向きは「声出しNG」ではあるもののフルキャパでの開催が可能になり、収容人数500人規模のライブハウスだともう既にダイブモッシュは解禁されつつある。今年春頃にはコロナ禍以前のライブハウスが戻ってくるだろう。というかそろそろ戻れ。


前置きはさておき、今回この記事を書いたのはコロナ禍におけるライブ事情、その反応、今後のライブハウスにおけるダイブモッシュについて記録する為である。

もしかしたらこれを読んでモヤッとする人もいるかもしれんが念の為に言っておこう。




ライブハウスは基本何しようが自由だ
なお自由には責任を持つ必要がある
それを肝に銘じて楽しめ




あと話があっち行ったりこっち行ったりするうちに長文になってるけどゴメンな(´・ω・`)

※なお去年から書き始めたのにも関わらず情勢が変わったり、仕事が忙しかったり、サ活にハマっていたり、要はサボっていたので多少文面がおかしくなってるけど許してぴょん



そもそも何でダイブモッシュ容認してるのは何故なのか答えてみる

Q.なんでダイブモッシュ認めてるの?

A.元々そういう文化だからだよ




いや答えになっとらんやないか。とツッコまれそうだが事実である。



俺が最初にライブハウスに行ったのは5年前にKNOCK OUT MONKEYPassCodeの対バンが開催された時だ。


その時の俺は朝起きて通勤→仕事→退勤→家でゴロゴロして寝る日々を繰り返していた。

退屈な日々に嫌気がさした俺は何となく今まで経験した事の無い事やりたいと思い、たまたまサブスクで聴いてたバンドとアイドルがライブをするという事を知りライブハウスへ足を運んだのである。



一応ダイブモッシュという単語自体は知っていたが、そもそもどんな行為なのかについてはよく分からなかった。要はほぼ何も知らない状態でライブハウスに来たのである。今思えばかなり無謀である。あたおかである。



でライブが始まると、そりゃドえらい光景を目にした。


ライブ開始早々モッシュの波に飲まれたと思えばヘドバンの嵐に巻き込まれ、サビに入って叫んだと思えば後方からやってきたダイバーに首を持ってかれた。ついでに脳天にカカト落としも食らった。



あ、これヤバいかもと思い後ろの方へ行ったらウォールオブデスが始まり、ノリで突っ込んで行くと気がつけばダイバーを持ち上げたり、その勢いで顔面に蹴りくらったり、今度はサークルピットで走り回り、最後は拳を高く突き上げているうちにライブが終わっていた。




身体はボロボロ、汗も尋常じゃないほどかいた。ペットボトルの中身も最初の頃に比べてかなり減っていた。なのに…






この高揚感と満足感はなんだろうか?





周りを見れば皆笑顔だ。俺より若い子達も俺と同世代の奴も、孫がいそうな爺さん婆さんも皆笑顔だ。



バンドマン達のカッコイイ演奏とパフォーマンス、そして楽曲の良さ、何よりカオスなフロアの光景と今まで感じた事のない生の熱狂が身体の痛みや汗の不快感を0にしてしまうほどだった。



俺はこの熱気を今まで知らなかったのか…



何故知ろうともしなかったのか?



こんなに楽しい事を今まで味わってこなかった。



30代になり初めて味わったあの体験は今でも思いだす。クソみそに熱くて汗臭いライブハウスに俺は気がついたら通いつめていた。



Q.なんでダイブモッシュは起こるの?

A.気がついたらなってんだよ



エビデンスガーとかなんやら聞こえてきそうであるが実際そうなんだから仕方がない。
まあKinggnuとかサカナクションあたりの所謂JPOP系バンドはともかく、マキシマムザホルモン、ONEOKROCK、DragonAshといったラウドロック及びパンク・ハードコア系になるとどういうわけだが知らないが無性に頭を振りたくなったり拳を高く突き上げたくなるものだ。



生の音楽に乗って頭振ったり拳上げたりしていくうちに気がつけば踊ったり飛んだり跳ねたりするのである。



さてライブハウスには基本人がぎっしりと詰まっている状態だ。満員電車と同じ様な環境の中で皆がそれをやったとしよう。



お互いの身体がぶつかり合い、熱いフロアで汗びっしょり、誰か分からん足を踏んだり踏まれたり、前から後ろから横から肩や腕やらなんやらがぶつかり合う…

それがモッシュなのだ。


横の人とぶつかった?いやこの状況下だ。仕方がない。俺もあいつもこの音楽の前では理性を保つ事なんて無理だ。それより今を楽しもう。それで良いんだ。大体のライブがこんな感じである。要は無礼講なのだ。祭りなのだ。多分皆そう思っているはずだ。


じゃあダイブはというと、これもモッシュと似た様なもので気がついたら飛んでいたというケースが多い。Twitterでもライブでダイブした人が呟いているのを見ると「なんか気がついたらやってた」「知らん間に上にいた」等のコメントがわんさか出てくる。そういうものなのだ。


なんというかモッシュやヘドバンでも抑えられない感情が限界に達した時に起こるのがダイブなんだと思う。


俺もホルモンのライブで一瞬何かが切れた感覚になり気がつけばダイブする為に柵の上を登ろうとした事があった。もっとも先客のダイバーが居た事と財布にウォレットチェーンをつけておりダイブした際下にいる人に怪我をさせる可能性もあった為、我に返って大人しく観てた。

もしかしたらあの日俺はダイブしていたのかもしれない。その経験があるからなのか、あの感情が再び湧き上がるまで俺は多分ダイブはしないだろう…


勿論人が人の上を転がるというのは割と危険な行為だ。体重の軽い人間ならともかく成人男性がダイブするとなると下でライブを観てる人にとってはかなりリスクのある行為だ。


だからこそ禁止になってる部分はあるものの、ダイブモッシュが発生するジャンルの音楽って先にも書いた通り「そういう音楽」なのだ。理屈じゃないのだ。衝動には勝てんのだ。だから暗黙の了解で許されている。中には「ダイブモッシュは自己責任」というルールのもとでライブをするバンドもいる。ある意味筋は通しているのだ。



話はズレたが、要は普段出せない感情を身体で発散する事が出来るのがライブハウスにおけるダイブモッシュなのである。


コンプライアンスや社会的正しさというやつで必要以上にちゃんとしないといけないこの世の中において、ダイブモッシュは所謂ガス抜きに近いものなのである。


なんというかネット文化で例えるならMAD動画みたいなものである。
権利的な問題で本来ならダメなんだけど、ノリと勢いでつい作っちゃったパターンが多く存在する(例:某FFのキャラの素材を使用した某魔法少女物アニメのOPを改造したMADとか某シンガソングライターが某シンガソングライターの乗った車に引かれるMADとか)

おっと手が滑った


ネタ元もネタ元で「まあ別にいいっすよ」というクリエイターもいれば「ちょwwwスゲェwww」と反応するクリエイターもいる。何ならマキシマムザホルモンマキシマムザ亮君に関しては自分達の楽曲を使ったMAD動画を作成した動画投稿者をライブに招待するぐらいである。


あ、また手が滑った



要は「こまけぇことは良いんだよ」の精神である。いやダメではあるけども。
承認欲求というよりも「なんか知んねえけど作ってみた!」とか「俺より面白ぇもの作れる奴いねえか?いるだろうがよぉぉ!」みたいなテンションで作られてる作品(?)があるだろ?ダイブモッシュも大体そんな感じなのだ。




さて、ここで本題である…





コロナ禍のダイブモッシュについて (ライブ事情とか諸々多め)


まず前提としてダイブモッシュはガチで禁止になった。
理由は簡単だ。思いっきり濃厚接触だからだ。


パンパンにつまったライブハウスでガンガンに汗をかいた人間が身体をぶつけあいながら歌って踊って転がって…うん余裕でOUTだわ。


いくらライブがしたくても、所謂コンサート的なライブが出来るアーティストならともかく、気がついたらダイブモッシュしちゃう系のバンドだとそうもいかない。実際、ライブが再開出来たのはコロナ禍に入ってから半年後ぐらいだった。
彼らの音楽性とか今までの歴史を振り返ると、ダイブモッシュせずに椅子に座りながら、あるいはその場から動かずにライブを観るということはある意味奇跡なのかもしれない。


特に初期の方では「ライブが出来るだけまだマシ」という感じだったし、ライブを観るのもかなり勇気のいる行動だった。ワクチンもなく、ひたすら手洗いうがいをし、外出を控えて人混みにも入らないという対策しかなかったのだ。あれだ、引きこもり最強説まで出るレベルだったからな。


今はだいぶマシだが、当時は1人で旅行にいくのも飲みに行くのもOUTみたいな世相だった。対策をキチンとすれば大丈夫みたいな言説があっても芸能人が同じ事すれば即炎上するのが日常だった。


当時はライブを観ても「ああ、やっとこのバンドの生演奏が聴けた!」と思っても「大丈夫?ねえコロナになってない俺?大丈夫?微熱とか咳とか出てない?身体だるくならない?」という不安の方が勝ってしまう事があり、何ともいえない感覚を覚えていた。



いや、ライブ直後は良いんだ。
問題はそこからだ。雰囲気的に2週間何も無ければOKみたいな感じだった為、当時は割とビビりながら仕事してた記憶がある。ぶっちゃけ職場でも感染した人はいたがその度会社からは「もうここまでくると誰が罹ってもおかしくねえし、罹っても誰も悪くねえよ( ^ω^ )」と言ってはくれるものの、残念ながらそういうわけにもいかない。
健康も大事だが何より生活に掛かってくるからだ。


実際SNS上では俺みたいなライブ好きだったり、旅行好きだったり、パリピだったり、ウェイ系みたいな外出してなんぼの趣味や遊びを楽しむ者は敵視されていた。一番コロナになるリスクが高いからである。


そんな中で仮にコロナに罹ったとしよう。まあ人権がなくなる。


今でこそそうでも無いが当時の様子はさながら魔女狩りキリシタン狩りから逃れる村人みたいな感じだった。
何だったらギターケース持ってただけで知らない人から罵声を浴びせられたって人もいれば、中の掃除をしに行っただけなのに扉に怪文書貼られたライブハウスもあった。


要は人間扱いされてないのである。


実際地方では感染した人間が村八分にされたとかされないとか令和とは思えない話もあったと聞く(なおソースはSNSなんで話半分に聞こう。そんな事がなかった事を祈る)


人権を守るにはもといコロナにならない為にするには、限りなくリスクを減らした行動を取るしかない。その結果ライブだけではなくスポーツイベントや祭りですら中止になるしかなかったのだ。楽しむ為に何か行動を起こす=悪みたいな流れが出来上がってしまったのである。いやマジで2020年はクソだった。あの1年は忘れたくても忘れられないわ。



それでもだ。


やっぱりライブは観たいし、イベントも参加したい。思えばエンタメは人間の営みに必要だと言う事も実感出来たのもこの年である。


楽しみがなくなるのだ。


家でじっとしてるだけで褒められるのも何か気味が悪いし、想像以上にしんどい。ゲームしたりYouTubeで動画を見たりもしたがしんどいものはしんどい。一体何の為に働いて金稼いでるか分からなくなる。


演者も演者だ。勿論お金を稼がなければならないという事もあるが、単純にライブがしたい。何かをしたい。という欲求を抑えていたに違いない。


彼らに取って創作活動とは生きる術でもあり、生きる事そのものだ。


例えるならイラスト描く事を禁止された絵師みたいなものだ。金も大事だが何より「何かをする」事の方が大事で承認欲求とはまた違う何か別のものだ。


そして2021年の春ぐらいからようやくライブ自体は何とか実施出来るようになった。4月頃に緊急事態宣言が出たり、5月のGWにフェスが開催されたらマスコミや医クラに叩かれたりしながらだ。


取り敢えずまずはライブを観れる事に感謝しよう。ダイブモッシュに関しては今は我慢しよう。そんな雰囲気が界隈に漂っていた。もうそうするしかないからだ。


俺自身もそうだった。ライブ観れるだけマシだろ。と思いながらライブハウスに足を運んだ。


ダイブモッシュは禁止なんだ。何故なら今はコロナ禍だからだ。コロナになるのは嫌だろ?コロナを移すのはもっと嫌だろ?



それにだ。




コロナになったらライブが観れなくなるかもしれないだろ?



ライブハウスでクラスターが発生させたくないだろ?




また音楽業界が槍玉にされて世間から叩かれるのはもっと嫌だろ?




ライブが観れるだけ満足しろよ。なあそうだろ?




世間からそう言われている様な気がした。後ろ指どころか背中で包丁を突き立てられている気もした。




そんな状況の中、ある出来事が2つ起こった。





1つ目はとある対バンライブを観に行った時の事だ。



演者がモッシュを煽ったのである。




最初はふわっとした言い回しだったが、反応が薄いと見るやいな


「大阪のアカンとこ見せたれぇぇぇ!」


演者がムキムキマッチョの大男だったからか、その見た目から放たれる威圧感に逆らえなかった…わけではない。



恐らく「ここならやっても良い」という匂わせに客もスイッチが入ったのであろう。限りなくソーシャルディスタンスに対応されたサークルピットが発生し、同時に限りなくソーシャルディスタンスに対応したハーコーモッシュが発生した。


俺は横の安全地帯のような場所から観ていた。一瞬たじろいだがソーシャルディスタンスに対応したモッシュを見た瞬間「まあこれぐらいならええやろ(ホンマはアカンけど)」と感じた。


何故なら、この日のライブは解散を発表したバンドが主催した最後のツアーだったからだ。


ダメだけどダメじゃない。



どういう風にあの場の雰囲気を書けばいいか分からないが、なんと言うかとやかく言うのは粹ではない気がしたのだ。ケチをつけたくないのだ。最後くらい華々しく迎えてやろう。本当はダメだけど。そうしよう。手洗いうがいすれば何とかなるだろう。そんな風に思いながら家路についた。


かと言って「本当にこれで良かったのか」「楽しかったと言っていいのか?」という迷いもあった。表では話せない事がこの日のライブで起こったからだ。下手にSNSで呟こうものなら炎上するだろう。下手すりゃツアー自体中止になるかもしれない。当時はキャンセルカルチャー全盛期だった事もあり、最悪のケースを迎える事も想像出来た。



色々考えた結果、その日のライブについては何も話さないようにした。厳密に言えば「凄かった」という感想だけにとどめた。




2つ目は京都大作戦の中止だ。



2週にわけて計4日間行われるこのフェスは界隈の中でも1.2を争うビッグイベントだ。ファンにとっては伊勢参りに匹敵すると言っても過言ではない。ロックファン以外でも名前は聞いた事がある一大フェスだ。


名だたるバンドやアーティストが並び、ソーシャルディスタンスを保った状態で声も出さず、それでも大盛り上がり…のはずだった。



最初の2日間が終わり、さあ次週も楽しみだ!と皆が思っていた中突如中止が発表された。



理由は悪天候とそれによる交通機関の影響。そして地元住民からの懸念の声だった。




主観ではあるが感情論でキャンセルされたようにしか見えなかった。




勿論天候の影響や人が多く集まる事で不安を煽ってしまった事もあるが、懸念の声というものがどんなものかは想像はつくがメディアからそれらしき文面が出た記憶はなかった気がする(もしあったら申し訳ない)



当時のTwitterでも京都大作戦に関する情報はあったが、その中でもネガティブな情報の発信源は地元民というよりも捨て垢に近いアカウントだった気がする。


ネガティブな情報というのは要は「うるさい」「騒がしい」「人が多い」「マナーが悪い」といった祭り事によくありがちな事だった。


コロナ禍の影響で人が集まりやすい祭りやイベントに嫌悪感を抱く人が増えた。と言うよりかは嫌悪感に「社会的ただしさ」というオブラートを包んで殴りつける者がSNS上で見る機会が多くなっていた。


オリンピックも似た様な感じだった。やれ税金の無駄遣いだ。やれ医療従事者に申し訳ないと思わないのか。やれ政府の陰謀だ。何だかんだ言われていたが、コロナというよりもコロナ禍でワイワイするとはけしからんという風潮がSNS上ではあった。



実際のところ、もう既にコロナで死ぬよりもそれによる自粛で経済的な死を迎える人の方が多いのではと囁かれ、元々悪かった景気も更に悪くなった。加えて1年以上続く閉塞感からか「もうこれ以上自粛するわけにはいかないのではないか?」という風潮が現実の世界ではあった。



もっともSNSの影響力…もとい攻撃力は人を死においやる程である。現実世界で生きているにも関わらず、どこか別のところでルール違反の可否を決められているようだった。


この頃からか俺の中である1つの疑念が生まれた。



「なあ?ダイブモッシュ禁止なのは感染対策だからだよな?」



「声出し禁止なのも感染対策だからだよな?」



「そうだよな?そうなんだよな?」




「決してルール破ったらライブが出来なくなるからじゃないよな?」




「俺たちは感染しない・させない為にルール守っているんだよな?」




「ダイブモッシュはともかく、声出した瞬間ライブが中止になるのは感染しない為なんだよな?」









確かに最初の頃はそうだった。



だか今だからこそ言えるが、実際は肥大した影響力を持つSNSもとい「社会的ただしさ」から身を守る為にルールを守らざるを得ないというのもまた事実だった。


酷くモヤモヤした日々が終わったのはオリンピックが開催された頃だ。

無観客ではあるものの、スポーツ選手がこれまでの努力の成果を見せる為に懸命に戦う姿を皆TVや配信サイトをかじりつきながら見ていた。
出場した選手や代表チームの活躍ぶりに興奮し感動し、正の感情をSNSで発散させていた。



恐らくここで皆気がついたのだ。
祭りごと。すなわちハレの日が必要だという事が。


生活に必要ないのかもしれない。優先度は低いかもしれない…


そんな事はなかった。市井で生きる者にとっては必要不可欠なものだった。SNSで誰かをボロクソに言う事では得られない「何か」がそこにはあった。



それを理解し始めたのだろうか、秋頃からは夏フェスの中止ラッシュは何だったのかとツッコミたくなるぐらい、普通にイベントが開催されるようになっていった。


突破口を開いた男たち


HEY-SMITH 猪狩秀平の場合


「お前らお行儀良く観てるけど、転換の時めっちゃ話し声聞こえてるからな」



なんばHatchのフロアから思わず笑いが漏れた。



コロナ禍になり早3年目に突入した昨年春。
世間もある程度コロナに対して恐れすぎないようになり、マスクをつけてる事以外は普段通りの日常が送れるようになった。


ライブのMCで笑い声が出ても咎められる事もなく、以前に比べてリラックスしてライブを楽しめるようになっていた。


大声で話す事は出来ないがそこそこ会話が出来る風潮に変わりつつあった。



「せやったら…まあええんちゃう少しぐらい声出しても」



観客からどよめきの声があがった。



「流石に大声はアカンけど中ぐらいの声やったらええと思うわー」



声の主、HEY-SMITHの猪狩秀平から放たれたその言葉は後に歓喜の声へと繋がった。



やっと一歩前進出来る。


そう確信したのは、昨年3月に行われたHEY-SMITHのライブだった。


全国ツアーも終盤に控え、ファンの熱気も最高潮となったこのライブは忘れられないものになった。


彼は言った。



このコロナ禍で鬱気味になった事。




小さなライブハウスでライブしたくても出来なかった事。




何度もツアーのスケジュールをリスケした事。





そんな困難を乗り越えてライブが出来るようになった事。




インディーズでありながら数万人規模のフェスを主催し、5年に1度行われるワンマンライブではアリーナクラスの会場を埋める実力を持ちながら、200人に満たないキャパのライブハウスでも本気でライブをするバンド、それがHEY-SMITHだ。



彼らはその日も本気のライブを魅せた。
ひとつ違うのはこちらから声が出せるという事だ。例え大声で歌えなくても心理的な鎖を壊すのには丁度良かった。この日から各地でも同様の動きが起こった。



それからのHEY-SMITHもとい猪狩の動きは早かった。



TheBONEZ、SHADOWSといったライブハウスの猛者と共に「コロナ以前と同条件でライブをする」イベントを行ったり、若手との対バンに積極的に参加。各地フェスでもその実力を遺憾無く発揮した。



そのライブの様子はこの目で見てないので何とも言えないが、フロアは「コロナ禍以前を思い起こす光景」が広まっていたそうだ。
ファンは待ち望んでいた光景をHEY-SMITHは取り戻そうとしていた。



実際この光景を待ち望んでいた人々は多かった。Twitter上では「遂にライブハウスが戻ってきた」「やっとか」「楽しみ!」というポジティブな意見が呟かれていた。



そして遂に彼らが主催するロックフェス
「HAJIKETEMAZARE」が開催された。
コロナ禍の影響で2年連続で中止になり、皆が失望に明け暮れた日々も終わりを告げたのだ。



ようやく俺達(私達)が待ち望んでいたダイブモッシュが繰り広げられるフェスが帰ってきた…

















となれば良かったのだがそうもいかなかった。






ぶっちゃけ声出しのところまでは皆「良くやった!」と絶賛していたのだが、HEY-SMITHが各地フェスでコロナ禍以前の状態でライブをする事に否定的な人もいた。





やはり怖いのだ。





怖いというのは、単純に「また音楽業界が叩かれたらどうしよう」「炎上したらどうしよう」等といった心理的な面も大きかった。もっともインディーズ界隈では既に戻っていたりするのだがゲフンゲフン。
もっと言うと外タレが出演した某夏フェスとか数年ぶりに開催された某HR/HM系のフェスとかでも声出しモッシュは発生したのだが、まあ海外勢はノーカン扱いなのだろう。知らんけど。



あまり言いたくないが、実際のところ「ダイブモッシュがない快適なライブ」が観れなくなってしまうというのも要因の1つだろう。



コロナ禍からライブに行き始めた層や昔はダイブモッシュが怖くて後ろの方で観てたけど、今の状況で前で観る事が出来るようになったファンにとって、コロナ禍以前のライブに戻るのはかなり抵抗があるのだ。


あとは後に触れるがコロナ禍ということもあり、まだ心構えが出来ていない人もいればダイブモッシュという行為に不安を覚えている人もいる事だ。そりゃ濃厚接触だもんなアレ…



あとは猪狩自身がYouTubeの配信でダイブモッシュの話題に触れる際の「雰囲気」も影響している。彼からすればダイブモッシュのあるライブは日常そのもので、その行為自体は否定しないスタンス…と言いつつ後述するMAHより「欲望ダダ漏れなところは隠しきれてない様子だったのもある種の人々にとっては脅威に写ったのだろう。


とはいえ結果的に興行としては大成功…だったと思う。

1日目でゴリゴリにやったものの最後の最後でライブ中の盗撮にブチ切れた猪狩が演奏放棄したり、2日目には初日にはなかったロープがあちこちに張り巡らされ「世間様はダイブモッシュさせへんでー」とばかりに規制されたコロナ禍ではお馴染みとなった手法でライブが開催されたものの、何だかんだでハッピーエンドとなった感じはする。



これは直接観に行ったわけではなく、あくまで参加者の感想をTwitterを見た俺の印象である。



様々な賛否両論はあったものの、彼が起こしたアクションで停滞していたライブシーンが一気に動いたのは事実である。



その後色々あったとはいえ、各バンドやライブハウスが徐々に元の姿に戻っていったのは間違いなく彼の功績だろう。少しやり方が強引だったのは否めないけども。



SiM MAHの場合




「今日のライブは残念ながら声出し禁止です」



「他のライブハウスでは既に声出しやダイブモッシュしているところもありますが…」




「よそはよそ!うちはうち!」





俺達は全力でライブをするんで楽しんでってねー。みたいなアナウンスが会場内に流れた。



ZeppOsakaBayside、大阪で1番キャパが大きいライブハウスであり、全国に拠点を持つZeppグループが運営するライブハウスの1つである。



コロナ禍当初より、当時のガイドラインに従った有観客ライブや配信ライブを実施していたSiMは昨年秋にある試みをツアーで実施した。声出し解禁ライブである。



HEY-SMITHに比べるとゆっくりしているようにも見えるが、彼らは既に解禁されつつあった声出しを改めて明確にしたのだ。



残念ながらZeppグループはあくまでキャパシティを元の状態に戻す事を優先した為、観客を制限する必要がある声出しを解禁する事は出来なかったものの、コロナ禍当初に比べてかなりルールが緩和される事となった。



もっともそれ以前にライブをしていたHEY-SMITHとか某ミクスチャーロックバンドとか某川崎で有名になったラッパーグループとかは普通にモッシュも声出しもしていたんだけd…おっと誰か来たようだ。



冗談はさておき、彼がそういう立場を取るのは理由がある



・皆が足並みを揃えて少しずつルールを変えていく事が理想だとすれば、各バンド及びライブハウスがバラバラのスタンスでやるのはよろしくない


・何故ならばライブハウスにおける暗黙の了解を知らないファンまたは「ダイブモッシュ禁止」という文言を信じて来場したファンがいる



・「ダイブモッシュがない」という事でフロア前方に妊婦さんが来た事があった。もしダイブモッシュが発生すれば事故につながる



これには一理あった。というのもこのライブがあった直前にダイブモッシュが発生したライブに遊びに来てたのだが、正直面食らった。楽しむより先に「???」という戸惑いの方が強かったのだ。



以前のように「まあこの感じだとダイブモッシュあるな」という心持ちではなく「いやあどうなるのかなあ」みたいな感じでライブを観に来ていたのもある。もっといえば近くにいたファンがΣ(゚д゚;)←こんな顔で驚いていたのもあって正直「うん、まあ衝動は抑えられないからなあ…でもお前ら程々にしとくれ…」と思ったのも事実である。



特に去年の秋頃にかけては「ダイブモッシュ禁止」という文言がライブによっては形だけになっていたところもあった。

一応世間は多少雰囲気的に収まった空気が出たとはいえコロナ禍である。人によっては「もう良いだろう」という人も居れば「いやもうちょっと様子見ようよ」という人もいるのである。


そういった意味では、徐々に規制を解除しここぞというタイミングで解禁するスタンスをとっているMAHという男は非常にバランス感覚が取れている人間なのだ。


元々主催フェスではダイブモッシュは自己責任としつつもセーフティーエリアを設けるなど、暴れたい奴も安全に観たい人も楽しめるような空間を作り出していた事も彼がそういう人間だという事を表している。




そんな彼もライブ終わりに「合法的にダイブモッシュが出来るように動いている。恐らく来年頃にはやれそう。その時はまたツアーで全国回るんでよろしく!」と語っていた。




彼らのライブでダイブモッシュが起こる時、それこそ真の意味で元のライブハウスに戻る時なのかもしれない。






ライブハウスを取り戻した瞬間

と言ってはみたが、実は小規模(500人規模)のライブハウスでは元に戻っていたりする。


なんばHatchクラスのキャパではまだ無理だが、既にサンホールクラスのキャパでは皆ノリノリである。先述した様にインディーズ界隈では既に規制は殆ど解除されているのだ。無論未だにマスク必須ではあるが(そりゃそうだ)



昨年の11月、大阪で3年振りにとあるフェスが開催された。ストーミードゥーズフェスタである。


大阪アメ村のライブハウス計6箇所で実施された所謂サーキット型フェスはコロナ禍以前と同じく「自分の身は自分で守る」というルールの下開催された。



コロナ禍が落ち着いた事。既にウィズコロナへと向かおうとしている風潮がある事。この事から次のフェーズに向かっても良いのでは?ならばやろうというのが今回の開催趣旨だった。


事前に「もしかすると世間一般の人が不謹慎と思うような状況が起こるかもしれませんので、それを不快に感じる方の参加はお控え下さい。」と記しておく事である意味「覚悟完了した奴だけ来いよ」と言う暗黙の了解を察した人間が楽しめる空間が出来る雰囲気が出来上がっていた。


この時俺自身「もうそろそろええやろ」という気持ちと「まだ様子見た方がええやろ」という気持ちが混ざっていたが以前より観たかったバンドが出演する事もあって、開催数日前にチケットを買って観に行った。




当日



ライブハウスでリストバンドとドリンクチケットを受け取り、荷物をロッカーにつめた後近くのコンビニでタバコを吸いながらこの日観るバンドを考えていると、所々から「久しぶり〜」「おお!○○やん!」「めっちゃ楽しみやねんけどー」という声が聴こえてきた。



どうも彼らは常連だったらしく、他のライブハウスでも同じような光景を見た。彼らにとって数年ぶりのハレの日が訪れたのだ。



ライブハウスはそのバンドの演奏を楽しむだけではなく、一種のコミュニティとしての機能も持っているのだ。

なんでもこういう場所でよく見かけていた名物おじさんを見掛けたらしくその話で盛り上がっている人達もいた。



そしてライブが始まるとコロナ禍以前によく見られた光景が飛び込んできた。




激しい音楽と共に身体を揺らす人



人目をはばからず頭を振る人



獰猛な音楽が鳴り響くと枷を外した獣が如く手足を振り回す人



笑顔で酒を飲みながらステージを観てる人



バンドマンの名前を連呼する人



そして






演奏が始まり、中の様子が気になって見に来た人を見て、「よう来たの!まだ始まったばかりや!こっちきいや!」と言わんばかりにジェスチャーで歓迎するバンドマン




少し荒れ気味のフロアを見て「そこに愛はあるんか?」「皆で楽しめる空間作ってこ!」と語るバンドマン



一見無法地帯ではあるが秩序あるライブハウスがそこにはあった。




俺自身最初は遠くから大人見しつつ、その光景を目にしていたが自分で気づくぐらい笑顔を浮かべていた。やはり楽しいのだ。他人が楽しそうにしてる姿を見てると。




SNSで自分と異なる思想もしくは許せない奴らがやらかすのをみて笑う奴らには理解出来ないであろう感情が芽生えていた。





リアルでしか得られない感情がそこにはあったのだ。




そして今回のお目当てであるDaisySunfistのライブでVo.あやぺたのMCが俺の心に刺さったのである。




「やっと私達のライブハウスが戻ってきたー!」



「私はここに出てるGARLICBOYSのライブを観て人生狂わされました!」





「だから私もあんたらの人生狂わせたるー!」






演奏が始まり気がつくと泣き笑いしながら前の方へ走っていった。






戻って来たのだライブハウスが




この瞬間だけかもしれない




それでも確かに俺の中のライブハウスが帰っていたのである







皆が愛したライブハウスがようやく戻ってきたのである






おわりに

長ぇよ( ゚д゚)



いや本当にこうなると思わなかった。いつか書かないといけないよなあと思いつつ、書いてみると想像以上に時間がかかり、仕事もプチ繁茂期となり、もっといえば書いていくうちに俺の考えも変化したり、後で読み返すと「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」って叫びそうになったり、うんゴメンサボってた(白目)



とは言えまだ語らなければならない事はあるのである。



まずは現時点におけるダイブモッシュである。





コロナ禍が収まった風潮になり、かつ様々なバンドが限定的とはいえダイブモッシュを解禁した事で「もうダイブモッシュしてもええやろう」という雰囲気が出来上がった反面、「おお!このバンドなら遊べるぞー!」というスイッチが入った結果、ところ構わず暴れ倒しちゃうキッズも出始めたのも事実である。



まあ3年ぐらい我慢してたしなあと思う一方で「もうちょっとお前ら遠慮しろよ」と思ったりもする。いやモッシュはまだ良いよ。ダイブはまあ…うん…会場の雰囲気次第だな(遠い目)

ただバンドマンが投げたピックを10人ぐらいで床に這いつくばって取ろうとするな。放送禁止用語出そうになったわ。乞〇かお前らは(ダメです)



あとは自分達が気付かぬうちに「ただ暴れたいだけの輩」になってしまった人達も出てきてしまった。



元々ダイブモッシュ禁止だけど暗黙の了解でOKだったろって?うん、そうだよ。でも今は原則禁止だからな。表向きはダメだけど雰囲気が良ければ本番OKだろ?って言ってる風俗通いのオッサンみたいだからな(辞めなさい)
小さいところならともかく少なくとも今のZeppでそれやったらOUTだからな。その場の空気は読め。あと少しだから。



あとはチラホラと「昔のライブハウスの方がまだ治安良かったな」とか「コロナ禍前に比べると周りへ配慮する人減ったよな」といった話も聞くようになった。


実際のところ長年我慢し過ぎた結果歯止めが効かなくなっちゃった人も出てきているのも事実だ。というか世の中皆そうだ。我慢し過ぎた反動でハメの外し方を忘れてしまったのだ。



とは言え殆どの人がちゃんとルールとマナーを守りながら観に行っているのも事実だ。


元々ライブハウス自体が多様性の塊のようなもので、あらゆる人の居場所になっている面もある。そう遠くないうちに落ち着くだろう。というより来年ぐらいには「そういえばこんな事あったよね〜」っ話すレベルになっている気がする。そんな事を考えながら皆あの空間で楽しんでいる気がするのだ。




かと言って徐々に元の状況に戻ろうとしている流れに対して「ええ…」と思っている人もいるだろう。どんな人かと言えば「出来ればこのままダイブモッシュがないライブが観たい」人達である。




気持ちは分からんでもない。




俺自身ダイブモッシュに関してはそもそも問題視してないけど、背が低いのと身体が貧弱なのもあって後ろの方で大人見に徹する時もあれば、2階席で観る事もある。まあテンション上がって前の方でダイブモッシュにまみれながら観る時もあるが、そうした行為に抵抗がある人やガチで身体の弱い人になると自ずと選択肢が限られてしまうのだ。彼らだって前の方で観たいのだ。



ぶっちゃけた話、コロナ禍の規制によって客のマナーが向上されたのは事実だ。



所謂ボーカルよりもデカい音量で歌う「カラオケおじさん(お兄さん)」とか、泥酔して変なところで大声を出す酔っ払いとか、暴れられたら周りとかどうでも良いとか考えちゃうDQNが居なくなり、とても見やすい環境になったバンド・アーティストもいる。



コロナ禍でダイブモッシュが無くなった結果、他人の汗にまみれる事なく、他人の歌声を聴くこともなく、肩に肘を置かれる事もなく、顔面蹴られてコンタクトレンズがズレる事もなくなり、人によってはかなり快適な空間になったのも認めなければならない。


ただそれでも床に荷物置いて場所取りしたり、整番が1000番台にも関わらずSNSのフォロワーと協力して最前列取ったり、演奏中のステージをスマホで撮影したりとか、何というか「みっともない」奴もいるので結局のところ全員が快適に観れているかと言われたらそう答える事が出来ないのである。



元々、今の状況下では席もとい立ち位置の移動が出来ない為、例えば横にスメルハラスメント的な人が居たとしても、明らかに立ち位置をはみ出して観てる人がいても、不審者が居たとしても、こっちは身動きが取れない為満足してライブが観れない可能性もあるのだ。(あ、流石に痴漢はくたばれ。そういう時はセキュリティや周りに言ってご退場してもらおう)




何というか一長一短なのだ。多分どのルールを選んだとしても何かしら問題があるのである。
それだったら自分自身にあったルールに即したライブをするバンドを観に行くか、多少のリスクは覚悟して楽しむかという選択をするしかない。要はコロナ禍前と一緒である。もはや運でしかないのだ。



まあ、もしかしたらライブハウスだけで演奏してたバンドが指定席方式のホールでも演奏する日も当たり前になりそうな風潮が出てくる日も近いと思う(演者も客も歳食ったという事で)
それならそれで多少の不満は解消されるとは思う。


一番良いのは誰もが楽しかったと言える環境でライブが観れる事なのだ。それが一番難しい事だとしてもだ。





という事で







待ってます(今までの苦労を血涙で洗い流しながら)





おわり